精神障がい

精神障がいの状況

我が国の障がい者数約656万人のうち、精神障がい者は約258万人と推計されています。
 厚生労働省の精神障がい者に対する医療・保健・福祉施策は、ノーマライゼーションの理念の下、「精神障がい者の人権に配慮した精神医療の確保」と「精神障がい者の方々の社会復帰の促進、自立と社会経済活動への参加の促進」という2つのテーマを中心に入院患者の処遇の改善、地域で生活する精神障がい者の支援などに取り組んでいます。

精神障がいとは何か

「精神障がい者」という言葉には2つの意味があります。
① 精神保健福祉法でいう精神障がい者
精神保健福祉法では、「統合失調症、中毒性精神病、知的障がい、精神病質その他の精神疾患を有する者」と定義しています。
これらは、何らかの精神疾患にかかって、医学的治療やリハビリテーションなどが必要な人ことを指します。
② 障害者基本法の対象となる精神障がい者
障害者基本法では、「精神疾患があるため長期にわたり日常生活または社会生活に相当な制限を受ける状態にある人」と定義しています。
これは、精神疾患にかかったあと、一定期間を経たのちに専門的に認定されるもので、医療的なサービスに加えて障害年金の支給を含む福祉的な施策の対象となります。
障害者基本法に基づき精神障がい者として認定されると、その証明として手帳を交付されます。この手帳は正式には「精神障害者保健福祉手帳」というものですが、表紙には「障害者手帳」とだけ表示されており、表紙を見ただけでは何の障がいの手帳なのかわからないようになっています。
日常生活上、この手帳を持っている事の利点は少ないので、手帳交付の申請(精神障がい者としての認定を受けること)をしない人も多いです。

精神障がいの二大疾病

① 統合失調症
○概念
約100人に1人発病する精神障がい。発症年齢は10代半ばから40歳くらいまでで、多くは10代後半から30代までに発病することが確認されています。
○原因
完全には解明されていないが、脳内の神経伝達物質であるドーパミンの過剰活性が幻覚や妄想の発症に関与し、また、前頭葉の機能が低下していることが推定されている。「なりやすさ」については、その人のもって生まれた素質や、発達の過程で脳に生じた損傷の影響などが調査されているが、まだ十分には解明されていません。
単に遺伝だけの問題ではなく、それに何かの心理的・社会的・身体的な要因が加わると考えられています。
○主要な症状
統合失調症の症状は以下の3つに大別されます。
・主観的な異常体験(幻聴妄想など)
・感情や意欲の障がい(繁盛鈍麻、無為、自閉)
・行動面での異常(緊張病性興奮、昏迷)
幻覚や妄想などは陽性症状、病前の機能の低下による感情や意欲の障がいなどは陰性症状といわれます。
○治療
外来治療と入院治療に分けられます。薬物療法が大きな柱となるが、その他の治療法も病相の時期(急性期、慢性期など)に応じて適宜選択されます。
一般に、陽性症状の改善や再発予防には抗精神病薬の投与が、陰性症状の治療にはリハビリテーションが有効と考えられています。
 
② 気分障がい(うつ病と躁病)
○概念
抑うつか高揚どちらかへの病的な気分(感情)の変化を基本症状とする疾病。
臨床症状によって、うつ病、うつ状態と躁状態の両方向への病的な変化である躁うつ病(双極性感情障がい)の2つに大別されます。
入院する人は少ないものの、軽度うつ病も含めると患者数はかなり多いと考えられています。(日本人の8人に1人という説もあります)
○原因
抑うつ状態が生ずる場合は、概ね以下の4つの場合であると言われますが、症例ごとに臨床症状、前病歴、生活状況、性格傾向などを含む詳細な診察に基づいた、個別的・総合的な治療・援助が必要になるとされています。
環境因 人生の失意や不遇、深刻な対人関係の葛藤、不登校、失職など突然の災害、戦争、近親者の急死などの耐え難い外傷的体験による適応障がいあるいは心的外傷後ストレス障がい
内因 特別の理由が無いのに、定型的な抑うつ症状が周期的に反復する
誘発 環境因のような特別な理由が本人も周囲も思いあたらないにも関わらず、定型的な抑うつ症状が生活の特定の節目に出現する
併存 うつ病とは違う精神疾患の経過中に、抑うつ症状が現れる場合がある
○うつ病の主要な症状
身体症状 中核症状:睡眠障がい、食欲の変化、体のだるさその他 :性欲減退、便秘、口渇、頭痛 など
精神症状 中核症状:関心や興味の減退、意欲、行動面で気力の減退、知的活動、能力の減退
その他 :無力感、劣等感、自責感、罪責感、自信喪失、焦燥感、悲哀感
日内変動 身体・精神症状全体が朝目を覚ましたときに最も悪く、次第に軽快して、夕方から深夜には相当回復する。
○治療
気分障がいは自然治癒傾向のある疾患。薬のない時代でも多くは自然に寛解していたらしい。しかし、自然寛解には長期間を要し、その間に自殺や事故の危険もあるため、早期治療が望ましい。
・薬物療法
うつ病や躁病には特異的に有効とされている薬物の、抗うつ薬や抗躁薬があります。また躁状態やうつ状態の再発を予防する薬物もあります。早期に薬物療法を開始すれば、治療期間を短縮できます。
・精神療法
感情障がいの原因には程度の差こそあれ、環境、ストレスやライフイベントが関連しています。
そこで、これらに対処する力を得るために精神療法は有効です。しかし、重度のうつ状態のときに思考制止、極度の不安のために精神療法的介入が困難であることもしばしばあります。 
・心身の休養と家族介入
うつ病は”頭の電池切れ”の状態であるから、心身の休養が必要です。
また患者が休養できる環境を整えるために家族の協力が不可欠です。

その他の疾病

① 解離性同一性障がい
以前は多重人格障がいと呼ばれていました。2つ以上のアイデンティティ(自己同一性)や人格が入れ替わって現れる状態をいいます。
精神障がいの中では比較的頻度が高いとみられています。他の精神障がいで入院している人の3~4%にこの障がいがみられ、薬物乱用の治療施設に入っている人にも少数だがこの障がいが見られます。ただし、暗示を受けやすい人に対する心理療法士の影響が出ているケースも多いのではないかと指摘する専門家もいます。
いくつかの要因の相互作用によって引き起こされるとみられます。関与する要因にはたとえば、非常に強いストレス、自分の記憶・知覚・自己同一性などを意識から切り離す能力、精神の発達異常、小児期の保護や養育の不十分さなどがあります。
 
② ギャンブル依存症(病的賭博)
・WHOも認めるギャンブル依存症
「特定のギャンブルに対する過剰な欲求や執着心を抑えることができないため、それに対する代償をかえりみず、繰り返し行為に及んでしまう状態」をいう。
WHOにおいて「習慣および衝動の障がい」という項目内で「病的賭博」という名の疾病として認められています。つまりギャンブル依存症は、世界的に認められた立派な病気です。
・WHOによる行動的依存の定義
 ・あきらかな合理的動機を欠く
 ・患者自身および他人の人々の利益を損なう
 ・行動の反復性
 ・統制できない衝動に関連付けられる
 
③ てんかん
様々な原因によっておこる慢性疾患。先天性(遺伝要因)のものと後天性(外傷等)のものに大別されます。
重症てんかん患者は。妄想・幻覚をはじめとする精神症状を示すことがあり、その内容は複雑で、疎通性が保たれること以外は、統合失調症のあらゆる症状を示します。
認知症、重度精神発達遅滞の施設では、日常的な医療と介護の対象となります。服薬でけいれんが抑えられている人が殆どですが、小発作や大発作のある人もいます。
 
④ 精神障がいに分類されないもの
神経症(ノイローゼ)、人格障がい、心身症は、一般的に精神障がい者に分類されないことが多く、その症状について悩みや不安を抱えている患者のドクターショッピングを招き、かなり悪化した状態になってから精神障がいと診断されることがあります。
本人により症状訴えの当初から、医師の判断によってカウンセリングを受診する等のケアを受けることにより、症状の悪化を抑えることが可能です。
・神経症不・安障がい・・不安発作、パニック障がい、強迫性障がい、対人恐怖症
・人格障がい・・分裂病質人格障がい(風変り)、妄想性人格障がい など
・心身症・・主に神経内科で取り扱う内科疾患、胃・十二指腸潰瘍、高血圧、偏頭痛等精神の悩みで身体症状となる。
ドクターショッピング
受診する病院を次々と変えること。理由は様々であるが、「病状は出ているのに、検査の結果に異常は無く、原因がわからない。又は、大した治療をしてもらえない」「医師の説明の不十分による不信感」「医師に症状のつらさを聞き入れてもらえない・理解してもらえない」などが多い。

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